ビジネスコミュニケーションスキルについて

〜 心のつながり 〜

平成21年度日本商業教育研究学会全国発表原稿

岐阜県立岐阜各務野高等学校 今井 隆弘

 


目  次

1                はじめに

2                コミュニケーション

3                ビジネスコミュニケーションスキル

4                心のつながり

5                おわりに

 

1 はじめに

 ビジネスの基本は、「先用後利」先に用を足し後から利益を得る。顧客のために「用」を足すわけであるが、何の「用」を足したらよいのか。それは、顧客が望むものである。では、顧客が望むものをどのように把握したらよいのか。それは、市場調査というわけであるが、市場調査をもとに、ビジネスを始めたとき、上手くいく時とそうでない時もある。今までのヒット商品やビジネスモデルをみると、何気ないコミュニケーションから「これだ」と感じて行動し、ヒットしたケースもある。

 このビジネスを実践する中で「人が望む何か」を知るためのツールとして「コミュニケーション」がある。何気ないコミュニケーションからさまざまなヒット商品が生まれている。コミュニーションから得た情報を通し、先行投資する。コミュニケーションから得た情報をもとに、マーケティング戦略を実践する。個人成果主義は、一時的に利益をあげても、個人が保守的又は攻撃的になり、かえって全体の生産性を減退させることもある。企業の生産性をあげ、組織力を向上させ、変化に対応する人材を育成する上でビジネスコミュニケーションは、欠かせない能力でもある。

 

2 コミュニケーション

(1) コミュニケーションの価値

 私は以前、県内トップクラスの商業高校から地方の商業高校に転勤した。転勤先の高校は定員割れをするかどうか微妙な時期であった。私は3年目の国際経済科主任として学科経営をすることになった。それまでの方針は、進学中心。日商簿記検定2級合格数と進学の実績から定員を増やす方針であった。全商簿記検定2級が合格していない生徒も多数含めながらクラス全員日商簿記検定2級合格のための授業展開。検定に間に合わせるため、授業ペースは速くなる。生徒の能力より学校の方針を優先する。授業についていけない生徒が増える。しかし、立場や方針が優先させる。生徒とのコミュニケーションは日に日に悪化し、信頼関係も悪化する。ある生徒は、簿記が嫌で不登校になり、退学になってしまった。

 これではいけないと心から反省し、学校の方針や上司から指示されることはあっても「生徒を見よう、生徒とのコミュニケーションを大切にしよう。そして、保護者・地域とのコミュニケーションを通し、何を望んでいるか。心で感じ、心で受け止め、心で対応しよう」と決心した。

 ビジネスでは顧客に対し、自分の立場で商売をしようと自分の利益を中心に考え、失敗をするケースがある。当然、顧客との信頼関係も悪化する。顧客とのコミュニケーションを通し、何を望んでいるか。心で感じ、心で受け止め、心で対応した時、自然と顧客との心のつながりを感じ、時代の流れに心が敏感になる。自分が行動する前に、心が動き自然と顧客のためになる仕入れと商品提供、そして価格の設定ができる。

 

(2)情報分析

 コミュニケーションを通し分かってきたことがあった。商業高校の生徒の多くは、「学校を楽しみたい。勉強は嫌い。しかし、力はつけたい」勉強が好きであれば普通高校に進学している。「部活動をするためにきた」という生徒も多い、多くの商業高校が抱えるケースとよく似ていた。

そこで、方針を決めた。

@           単純で

A           楽しく

B           力がつく

一見、矛盾するようであるが具体的授業内容と工夫で実現してみた。今から16年前から4年前にかけて実践してきた内容は下記の通りである。

@           Eメールによる世界中の人々と英語によるコミュニケーション

A           テーマ別レポート作成と発表

B           英語版Eコマース作成

C           ビジネスプラン作成(日本語版と英語版)

D           海外研修

E           1年間の交換留学制度

F           外人講師(英語圏と英語圏以外)

G           英語版自由取引実践

H           メーリングリスト(クラス+海外留学生含む)

生徒とのコミュニケーションを通し、心を開いた本音の情報をもとに学科経営のマーケティングを行う。この積み重ねが口コミとなり、地域に浸透し12年間一度も定員割れすることはなかった。逆に定員オーバー。成績も資格取得状況も以前よりよくなる。進学もよくなる。コミュニケーションが上手くいけば、授業も当然上手くいく。成績も上昇していった。

 

3 ビジネスコミュニケーションスキル

 ビジネスコミュニケーション能力を高めるために、人としての「心」を育てる必要があるように感じる。人と人が接する前に、その人の心の状態に応じ、以後のコミュニケーションが大きく変化していく。

(1)心の準備

 人とコミュニケーションを行う前には心の準備がとても大切である。

 心の準備の手順として

@            ゆっくり深呼吸して心を落ち着かせる。

A            いい状態でコミュニケーションし、いい結果がでて、心から感謝しているイメージを心にしっかり持つ。

この心の準備ができているか否かにより、生徒とのコミュニケーション及びビジネスコミュニケーションともに落ち着き、いい状態で対応できた経験を多数実感してきた。

 

(2)環境整備

 人とコミュニケーションを行う場所の設定について配慮するとよい。

@            顧客の正面に座らなくてよい椅子(斜めに位置した椅子)が設置されるとよい。威圧感を少なくし、親しみを感じさせる。

A            部屋は広すぎず、狭すぎず、程よい広さがよい。

B            相手が座る椅子の位置から自然に、外の景色が見えるとよい。

C            目線をそらした時、入ってくる観葉植物や自然の写真等が心穏やかにさせる。

D            床は濃い色で壁、天井に向かい少しずつ薄い色になると心が落ち着きやすい。

E            部屋の色使いにも配慮するとよい。白を中心に薄めの色使いがいいと思われる。

F            顧客を待たせることもあるので、心が和む書籍など手に届く場所に設置しておくとよい。

G            心和むバック音楽を流してもよい。

H            必要に応じてメモを取ることができる筆記用具とメモ用紙を常備しておくとよい。

I            クレームをつける人への対応策として、録音機を必要に応じ設置しておくとよい。

以上、ビジネスコミュニケーションをよりいい状態にするための環境整備の参考事例である。

 

(3)第一印象

 人と接した時の第一印象は、とても大切なものである。第一印象は、笑顔が基本であるが、営業用スマイルは相手も自然と分かるものである。

第一印象をよくするためには、相手と会う前の心の準備がとても大切である。鏡の前でシュミレーションしてもよい。

 最初にコミュニケーションする時の参考パターンの事例として

@            相手を笑顔で迎え入れる。

A            「忙しい中、着ていただきありがとうございます」と感謝の言葉を簡単に述べる。

B            自己紹介する。

C            相手に座っていただきたい椅子へ案内する。この時、天気の話など無難で簡単な話をしながら移動できるとよい。

D            相手が座った瞬間に相手の表情、しぐさ、身なりをみて、相手が喜びそうなことを少し褒めながら(認めながら)導入のコミュニケーションをとるとよい。

 

(4)コミュニケーション時の位置取り

@            相手の正面から接するのでなく、斜め又は後ろから入ると威圧感が少ない。

A            同じ目線にするとよい。相手が立っている時は立ったまま。相手が座っていたら座って話をするとよい。地面に座っていたら、地面に座って話すとよい。

B            相手の正面に位置取りするのでなく、すこし斜め又は横に位置しコミュニケーションすると親密感がでやすい。

C            相手が感情的になっている時は、相手の左側。論理的な話をする時には、相手の右側に位置しコミュニケーションするとよい。これは、右脳・左脳の特性を考慮している

 

(5)会話の仕方について

@ 会話のスピードは、相手の会話スピードに合わせるとよい。

A        会話の音量も、相手の音量に合わせるとよい。

B       方言を含めた会話の口調もできる限り相手に合わせるとよい。

C       会話のあいづち及びオウム返しを行い、相手を受け止める雰囲気を作るとよい。

 

(6)ビジュアル化

@ 会話の内容を図式化して受け止めるとよい。

A            説明したことを図式化するとよい。

 

(7)会話の量

一般的にコミュニケーション能力の高い人ほど聞くことが上手である。コミュニケーションの半分以上は、自分が説明することより、相手の話を聞き、受け止めることが心のつながりを感じ人と人のコミュニケーションが構築され、結果としていい状態になりやすい。

 

(8)クロージング

 コミュニケーションの最後の部分であり一番大切な部分である。ビジネスでは、契約を取ることができるか否かである。ここで注意しなければならないことを上げてみる。

@            場の雰囲気を読む

A            我欲が出やすくなる

B            焦らない

クロージングは、事前のイメージトレーニングを思い出すとよい。クロージングで我欲がでると現実的になり、焦り、無理やり自分の方へ向けようとしてしまう。結果として上手くいかなかった時、相手の評価が下がり、口コミでマイナスが広がってしまう。自分自身も精神的ダメージが大きくマイナスのスパイラルへと入りやすくなる。これが続くと、心身障害的になるケースもある。数ヶ月続くと外傷後ストレス障害(PTSD)になってしまうこともある。

クローズイングで大切なことは

@            相手と一緒になり結論を探る姿勢。

A            自分が相手であればどのような方法がベストであるかを半分以上は意識しながらコミュニケーションするとよい。

B            二つ又は三つの方法()を示し、提示した方法が相手にとりベストであることを示すとよい。

 

(9)還元

相手がいいコミュニケーションと感じた時、自然に人に伝えたくなる心理が働く。心のコミュニケーションを通し、人が人を呼ぶことになる。ここに「先用後利」の精神がある。我欲を持ち過ぎると、結果として損をすることがある。生徒、教師の肩書きの前に、人として心のつながり。売る側、買う側の肩書きの前に、人としての心のつながり。それぞれを大切にし、心ある人の輪を広げられたらと思う。

 

(10)フォロー

 人は、いい状態を維持することはとても大変なことである。商品販売でもその商品を使いこなしているとはいえない。

 そこで大切になることは、フォローである。何気ないタイミングや会った時、

「その後、どうですか」と自然な笑顔で声をかけるとよい。この何気ない声が、人として本当に心安らぐことが多い。

 その方法は、直接声をかけることもあれば、メール、電話、手紙などいろいろな方法を使用してよい。しかし、一番心が伝わることは、直接のコミュニケーションであることは言うまでもない。

 

 このように、心の準備から始まり、フォローまでが一連の流れである。この連続が上手くいくよう毎日、朝晩のイメージトレーニングを欠かさないよう日々くせにするとよい。いいイメージに感謝できるほど、その結果が自然に早く現れる傾向があると思われる。

 

4 心のつながり

 誰でも経験したことがあるであろう。心の状態が良い時は、人と接しても気持ち良い。逆に、自分の心が曇っている人とコミュニケーションしても作り笑顔になりやすい。ビジネスにおいても、同様に心の状態が良いと顧客と接しても気分が良い。その結果、顧客に対し自然な笑顔と自然なマナー、何気ないサービスが顧客の心を癒す。心の良い状態が続くと、顧客との信頼関係が構築される。顧客が、品物を買うというより、「この人から買おう」となる。誰でも、多少値段が高くても、「この人だから買おう」という経験をしたことがあると思う。ビジネスの前に、人との関係を大切にする。人としての心のつながりを大切にする。「心のつながり」があれば、長い商品説明がなくても、「あなたが薦める商品なら信頼して買いましょう」といった心のコミュニケーションに発展していく。心のつながりが、自然体の信頼関係を築く。その結果、「信頼関係に理屈はいらない」というすばらしい関係を構築することができる。この関係ができると、「和」が広がる。「あの人は、信頼できる人だから、あの人から買うと良いよ」と。お金も広告の手間も何もいらない。ただただ、相手の心を感じ、心でコミュニケーションをする。そして、和が広がっていく。どんなに忙しくても、あの人のためであれば、と心地よく仕事ができる。

 このことは、教師が授業展開する時、クラス運営する時、学校経営の時など同じ部分が多々ある。生徒とのコミュニケーションが上手くいくと信頼関係が構築できる。生徒から「あの先生がいうことなら」と信頼して行動する。その先生も、生徒との関係を大切にするように行動する。管理職にしても、教員との信頼関係ができていれば、多数の教員から「あの校長先生が言うことなら」と指示以上のことをする。学校と地域とのつながりにしても、地域との信頼関係があれば「あの学校に入れておけば大丈夫」と口コミで広がり定員オーバーになる。今、在籍している生徒との心あるコミュニケーションを通し、人としての信頼関係を構築できれば、生徒及び保護者そして地域が何をどのタイミングで、どのように望むか、心で受け止めることができる。

 

5 おわりに

 ささいなことでも、心で受け止め、感じて動くコミュニケーションがあるから、「感動」がある。感動があるから、人に話し伝える。人に伝えるから人が集まる。人が集まるから、より良い商品ができ、より良い会社ができる。そして、最後に利益が生まれる。「先用後利」である。

 人として心あるコミュニケーションが人を育て、ビジネスを育て、社会に必要な「心ある人材」を育てることができると信じている。

 

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